KOE FROM
#1
KURASHIKI
倉敷

KOE FROM INDEXREPORT

倉敷と帆布のはなし

瀬戸内の、美しい白と出会う旅

「帆布」という、古くて新しい素材のことを知るために、岡山県倉敷市へ。
そこでは瀬戸内海に面した風土と、
時代の流れに根ざしたものづくりの現場がありました。

出荷を待つ厚さや幅が異なる帆布がずらり。豆腐に似ているので、「トウフタタミ」と呼ばれる。

母のような

「帆布」というのは、なんというか、母のようだ。ちょっと無骨で近寄りがたい父らしい「革」とも、傷つきやすくて取り扱いに注意が必要な娘らしい「絹」とも違って。
帆布は、多くが綿(たまに、麻)でできている。綿を紡ぎ合わせて一本の糸にし、さらにその糸をより合わせて大きな一本の糸にする。それをぎゅうぎゅうと平織りにして、一枚の布が出来上がる。ふわふわで頼りなかった綿は、包容力のある帆布に生まれ変わる。帆布は、へこたれない。ちょっとやそっと荒っぽく使われても、「あらそう」なんて受け止めて、へっちゃらな顔をしている。帆布は寛容だ。汚れても「洗えばいいでしょ」と返してくるし、重たいものを運んでも「大丈夫よ」とウィンクをよこす。なんといっても、帆布の生成り色は、周りに気を遣わせない。帆布には、そのような強い美しさがある。

まるで真っ白な糸の川のように、目にもとまらぬ速度で糸が通されていく。
スムーズに作業が進むよう、繊細な作業。

たて糸とよこ糸

多くの人が「工場」と思い浮かべて絵に描くであろうノコギリ屋根が、この工場には現然と残る。なんでも、できるかぎりの電力を、電灯につかわず機械にまわすよう、たっぷり日の光を取り込むための建築の工夫であるらしい。それに象徴されるように、工場はすべて目に見えて理由が分かるものでできていて、ケミカルなブラックボックスは、まるでない。糸を紡いで、糸をよって、たて糸をつくって、機でよこ糸を通す。その繰り返しで、しくみは単純。そこで目と手に長けた職人たちの出番だ。たて糸を「おさ」と呼ばれる装置に通すのは、勤続四〇年の塚本さん。例えて言えば、何百本ものミシンの針に一本一本糸を通すようなもので、この「おさ」が準備できなければ、織りにかけることはできない。しかもこの作業ができるのは塚本さんだけ。「わたししかできないとなると、休んでもいられないよね」。繊細な作業かと思って声をかけるのをためらっていると、手元はたゆまず動かし続けたまま、にこりと笑いかけられた。「難しいことではないよ、長くやってきたから」。といって、熟練の人たちばかりというわけでもない。たて糸を巨大なドラムに巻き付ける仕事をしている加藤さんは、新卒で今年入社。どうしてここに?と尋ねると、「なんとなく」と言葉は少なかったが、「彼女はね、工場が取材されたテレビ番組を見て、ここで働きたいと決めて面接に来たの」だと、後で教えてもらった。五〇歳の年の差の職人が、まるでたて糸とよこ糸のように同じ空間で働いている。

日本に1000台しかないシャトル織機の一部がここにある。
古い機械なので、修繕しながら大切に使われている。

耳と心臓

シャトル織機が、工場の「心臓」だ。「シャトル」という道具を使う昭和四〇年代生まれの織機が全部で六〇台、うんうんうなりを上げる。隣の人の声も聞こえない轟音の中、目に見えない繊維がみっしりと空中を舞う。糸が切れないよう、湿度も高く設定されている。忙しく稼働する工場だ。しかし不思議と、その風景には静けさがある。織機と織機の間をゆっくりと歩く人の姿。「織り子さんたちは、すべての織機の得意不得意を心得ている。この太さの糸を織るには、この織機が向くというのも知っているし、あ、そろそろ糸が終わりそう、というのを、歩きながら世話をしている。あの速度が大事」だそうだ。そうしてシャトルでよこ糸を通して織った布には、「耳」がうまれる。シャトル織機うまれの帆布たちの個性だ。そのままでもほつれないという機能面でのメリットはもちろん、耳の部分だけ色を変えてデザインに活かす、なんていうこともできる。シャトル織機では、最大で幅九〇センチの布しか織れないし、一日に一台で織れるのも五〇メートルと、最新式にはくらぶべきもない。ところが、できた帆布には血が通っていて、どことなくキャラクターを感じるからおもしろい。

繊維のおかげで発展してきた町・倉敷。
江戸時代に天領だったため、いまも美しい屋敷が多く残る。

布の記憶

工場で帆布を触った瞬間、「あ、学校」と思った。それもそのはずで、帆布は学生鞄や体操マット、跳び箱の一段目と、学校まわりのものに多く使われてきた。それ以外にも、柔道着や郵便局員の袋、テントなどなど、おそらくほとんどすべての日本人のDNAに、帆布の記憶が組み込まれているのではないだろうか。国産帆布の多くが、倉敷のこちらの工場でつくられていることを考えると、記憶の中の帆布は、倉敷出身だったかもしれない。倉敷でも海にほど近い児島地区には「三つの白」というものがあって、それは、「塩田の塩の白」「瀬戸内海のイカナゴの腹の白」、そして「綿花の白」の美しさをいう言葉だ。干拓でできたこのエリアは米づくりに向かず、代わりに綿花を育ててきた。倉敷と聞いて思い浮かぶ、大原美術館をつくった実業家の大原孫三郎も、繊維業によって財をなし、芸術を守り、白壁の美しい街並を守ったのだそうだ。飾りっけがなくて、実用一辺倒だった帆布。最近では、色やデザインに工夫を凝らした帆布の商品が生まれつつある。

KOE FROMの商品
おしゃべりマット
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つくえでも芝生でも
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ベジ袋
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帆と波(L)
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帆と波(S)
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食事を楽しく、毎日を楽しく。

holidayさんのものづくり。

大きな窓からこちらを見ていたのは、長男のうたくんと、長女のりんちゃん。元気いっぱいの2人が、家の雰囲気をさらに明るくする。

「デザインを通して、食べることを楽しくしたい」。そう語るのは〝デザインと料理〟の分野で活躍するクリエイティブユニット「holiday」の堀出隼さん。holidayとは、アートディレクターの隼さんと、妻で料理人の美紗さんによる夫婦ユニットの名前だ。コンセプトは「make everyday happy」=毎日を楽しく。主な活動は、アート&フードディレクション、ケータリングサービス、イベントの企画運営までと幅広い。
デザインの仕事を主に行う隼さんは、18歳の時パリのデザイン学校へ進学。その時、言葉が喋れない分デザインで語る、誰が見ても分かるものを作る、という気持ちが生まれたという。「直感的に理解できるような、多くを語らないデザインを心がけています」という隼さんは、いつも心に「良いデザインは白黒でもかっこいい」という言葉があるという。学校を卒業後、働いていたデザイン会社の上司から言われた言葉だ。「日本の習字も、白黒でかっこいい。ロゴを考えるときはいつも白黒でいけるかどうか考えます」。holidayの作品が持つ、シンプルな中にある強さは、こういう思いがあるからなのかもしれない。

隼さんの仕事スペースは、ピンクの壁に子ども達が描いた絵や、仕事のポスターが壁に貼られている。後ろの階段は、ロフトへ続く。

holidayの中でも大きな仕事のひとつだというケータリングは、隼さんが全体のディレクションやディスプレイ、料理の出し方などを考え、美紗さんが料理を作る。「2人で、今回のテーマならこういう見せ方ができるよねって話し合います。僕は料理についての知識は全くないですが、〝食〟も、デザインを考えるのと同じようにできるんだって気づいたんです」という隼さん。一方、美紗さんは、以前働いていたレストランで、もっと楽しく料理を食べてもらうことができないか悩んでいたという。そんな中、隼さんと出会い、答えが見つかった。「デザインという要素が加わって、『これだ!』って。食卓を楽しく、という思いが彼と合致したんです。ケータリングという方法で、空間全体をデザインして、直接人とふれあいながら、楽しんでもらうというのは理想の形です」。
イベントにケータリングを出す時は、holidayの活動を知ってもらうため、ホームページをiPadで表示して展示している。でも、ただiPad置くだけでは味気ないし、なんとなく自分たちらしくない…。そう感じた隼さんは、なんとフライパンをイメージしたiPad入れを木で手作りしてしまった。「手作りの木のぬくもりが、なんとなく僕たちっぽいかな。このフタを開けると、わっと驚いてもらえるのも、気に入っています」。

陶器の塗料でできたシールを、お皿やマグカップに貼って、自分だけの一品を作るワークショップも行った。これはその中のひとつ。

2人は、神奈川・葉山にある一軒家を自宅兼仕事場としている。この家もまた、holidayの作品のひとつ。家のコンセプトは「class」。家族だけど、クラスメイトのような関係を、という願いを込めて「クラス」。そして、上質に、品よく暮らすという意味の「class」。もう一つは、そのまま「暮らす」。隼さんは「これまで、家を建てたことなんてないので悩みましたが、建築家の方と話していて、このコンセプトが決まった瞬間、こういう家にしたいという思いが溢れ出てきました。床も、幼稚園で使われているようなコルクを使用していて、本当に教室っぽいでしょう」とこだわりを明かす。この日も、子ども達は泣いたり笑ったりしながら部屋中を駆け回る。「毎日が遊園地のような生活ではないけど、自分たちなりの楽しみ方で過ごしています」という隼さんの言葉に深く納得した。

隼さんの後ろの棚には、これまで作った作品や仕事道具が山積み。
もちろん、この棚も隼さんによる手作り。

現在のholidayは、様々なところからの依頼に応える形で物を作ることが多い。「そういう意味では、アーティストではないかもしれない。でも、何にでも興味があるので、依頼がくる度に新しいことを発見できるのがうれしいです。デザインだけでなく、そこに〝食〟をベースにすることで、オリジナリティも出てくるし、自然とライフスタイル関係のお仕事が増えました」。

クリスマスイベントに提供したケータリングのアイディア帳。「宇宙SHOCK」をキーワードに物語が広がる。

最近は、鎌倉のカフェ「HOUSE」をプロデュース中。そこでは、美紗さん考案のレシピを使った料理が食べられるほか、ワークショップも開催されている。木工作家さんによるバターナイフ作りのワークショップでは、最後に自分が作ったバターナイフを使って、焼きたてパンにバターを塗って食べるまでが実習。「どこかに自分の手が加わることで、食事がぐっと美味しくなることがある。そういう事を体験してもらいたくてやっています。最後に一緒に食卓を囲むことで、みんなの距離がさらに近くなるのを実感するのがうれしいです」。食で楽しくコミュニケーションしよう、というholidayのコンセプトそのままの活動だ。今後は、新しくて面白い鎌倉土産をつくって、「HOUSE」で販売したいと考えているそう。デザインと料理を軸に、活動の場を広げ続けている2人。これからは、もっと身近にholidayを感じることが多くなるかもしれない。

隼さんのパソコンの向かいには、美紗さんの仕事スペースであるキッチンがある。同じ作業台で別々の作業をすることも。

今回、KOE FROM KURASHIKIでは、holidayさんに倉敷帆布を使った商品のディレクションをお願いしました。「帆布はカッチリとしたキレイさがありますが、今回はあえて少しゆるやかに、使っていて味が出てくるラフさを大切に。家族の会話を楽しんでほしいという思いを込めて、テーブルクロスには吹き出しをつけてみました」(隼さん)。テーマは、「どこでも楽しい食卓に」。このクロスを置いたらどこでも食卓に早変わり。これを使って、好きな場所で、好きな人との食事と会話を楽しんでください。毎日が少し楽しくなるお手伝いができれば、と思っています。

holiday
アートディレクターの堀出隼と料理人の堀出美沙が 2010 年に設立。アート&フードディレクション、ケータリングサービス、イベントの開催及び企画運営、「食とデザインとアート」を中心に活動中。
https://we-are-holiday.com/



あとがき

自分の心の声を聞いて生きることは、
とても大切なこと。
そしてとても、難しいこと。
だからこそ、自分の声に正直に
生きている人たちは魅力的です。
その人たちがつくりだすものもまた、
わたしたちを惹きつけてやみません。

KOEは、そんなひとりひとりの声を大切に、
世界に向けて届けることができたら、
という願いでうまれたブランドです。
着る人も、作る人も
しあわせになれる服作りをめざして、
まずはすべての工場に行って
労働環境をひとつひとつチェックし、
基準を満たした場所だけで
生産していくことを決めました。
第一号店は岡山から始まります。
KOEをたちあげたクロスカンパニーが
産声をあげた土地だからです。

そのようにKOEというブランドを
積み上げていく中でわたしたちは、
服づくりにまつわる伝統の技を
意志をもって守り続けている
作り手の声をもっと聞きたい、届けたい、
と思うようになりました。
ブランドの枠をこえた
KOE Fromの活動が、スタートしました。
世界中に、その土地に根づいた
誠実なものづくりを続けている人がいます。
自分たちがつくりだすものを、
長く心地よく使ってもらいたい。
そんな想いに正直に、
今日も仕事に向き合っている人がいます。

わたしたちはそこにさらに、
今の時代ならではの感性で
チャレンジを楽しんでいる
クリエイターの声をとりいれて、
みなさんの毎日を
ちょっとワクワクさせるようなものを
一緒につくりたい、と思いました。
かけがえのない声を
より多くの人に届けたい、と思いました。

KOE Fromはこれから、
自分の心の声に耳をすまして
それぞれのやりかたでものづくりを
続けている人々を探して世界中を巡ります。
それぞれの声がかけあわさって
新しい物語が生まれる旅を、
一緒に楽しんでもらえたらうれしいです。
第一弾は、KOE From KURASHIKI。
岡山の倉敷帆布さんと、
逗子を拠点に活躍されている
holidayさんのコラボレーションです。

この秋、岡山市の問屋町にできる
KOEの第一号店には
大きなシンボルツリーがあります。
そこに行けば今ならきっと
たくさんの綿花が咲いているのを
ご覧になっていただけると思います。
岡山は昔から、綿花からつくる
上質で丈夫な帆布造りで
栄えてきた土地でした。
倉敷帆布では今でも全行程を一貫生産し、
職人たちの厳しい目と手で
その伝統を受け継いでいます。
その中には、今ではたったひとりの
職人さんしか請け負えなくなった技術もあります。
でもそうやって、てまひまかけて生まれた帆布は
長く心地よく使える学生カバンとなり、
職人の道具袋となり、お母さんのエプロンとなり、
生活の中で愛され続けています。

そんな倉敷帆布を手にとりながら
holidayさんには
「家族と一緒に楽しめて、みんなの会話が
はずむようなものをつくりたい」
とお願いしました。
(KOEには、家族ひとりひとりの声も
大切にしたいという想いがこめられています。
だから、ファミリーラインで展開しています。)
デザインを通して、みんなのごはんの時間を
楽しくする試みを続けている、
holidayさんにだからこそできたお願いです。

そうやってうまれたのが、
倉敷帆布のテーブルクロス。
家はもちろん、外でも
ピクニックシートとして使えて。
丈夫で、汚してもガシガシ洗えて、
洗えば洗うほど、いい風合いになって。
広げた場所が、そのままみんなが集まる食卓になる。
そんなデザインに込められた意図を聞いていると、
そのテーブルクロスを囲んで
たくさんの楽しげな声が交わされる様子が
ふわふわと浮かんできて、
しあわせな気持ちになりました。

どんな商品になったかは、
店舗でぜひ手にとってごらんください。
これから、日本の各地に
そこに住む人たちがうれしい気持ちで
集まれるようなお店をつくっていく予定です。
イベントも時々開催します。
みなさんの声が聞けることも、楽しみにしています。
KOE Fromの商品は
数は少ないですがECサイトでも取り扱っています。
wear.koe.com
今は、ローカルと世界が、
直接つながっていける時代です。
ひとりひとりの声を、大切にしていける時代です。
いい時代に、なってきました。


Credit

倉敷帆布
株式会社バイストン
岡山県倉敷市曽原414-2
TEL 086-485-2112
https://www.baistone.jp/

KOE From KURASHIKI

編集 伊藤総研

「倉敷と帆布のはなし」
文 浅野佳子・林麻衣子(nico edit)
写真 白木世志一

「holidayさんのものづくり」
文 宮原未来
写真 石渡朋

「あとがき」
文 細川美和子

デザイン 田中良治(Semitransparent Design)

発行
KOE PRESSROOM
https://wear.koe.com/

SHOP

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